私たちは皆、「戦争は悪い」「戦争はよくないもの」と考えてはいるだろう。しかし戦争はなくなっていない。反対に戦争は政治の一手段として時には必要と考える人もいるだろう。また戦争では、しばしば人権を無視した事態が生じる。人権や倫理なんて戦争に関係ないと考える人もいるかもしれない。しかしそれで本当によいのだろうか?この「よいのか?」という観点、つまり倫理的に「よい」のか、「正しい」のかという観点から戦争について批判的に考察することはできないだろうか?さしあたって「正しい戦争はあるのか?」と問いを立ててみよう。そこからもし正しい戦争の規準を導けるとするならばどうだろうか? 本講座では、戦争倫理学において主要な理論である正戦論を用いることにより、戦争の倫理的諸問題を考える。正戦論は「正しい戦争」の規準を構築することによって、むしろ実際の戦争の悪を暴き出すものであると考える。そして、戦争を批判的に考察し、戦争を時には必要と見なす人にも戦争に反対である人にも、双方が議論することのできる共通の土台となる正戦論を用いることにより、戦争の倫理的諸問題を検討する。